チック・コリア、ソロ・ピアノ コンサート

2014年6月16日チック・コリアのソロ・ピアノコンサートを聴きに行きました。

半年前に購入したチケットでしたが、忘れずに仕事も定時で切り上げコンサート会場へ。
よみうり大手町ホールという、従来からあるよみうりホールではなく、大手町の読売新聞本社ビルと同じ場所に2014年の3月にオープンした新しいホールです。チケットにもお間違えのないようにとの注意書きがありました。会場には開場前に到着。もうかなりの人が集まっていました。

全体を見回すと年配の方ばかりという感じです。まあ、考えてみればチックも73歳、同時代の人も多いのは当然と言えば当然です。ホールの中に入るとクラシック音楽で使われるホールという印象です。ステージにはグランドピアノが1台置かれていて、もちろんPAなどもありません。ここに舞台の袖からタキシード姿の人が出てくればまさにクラシックの演奏会。でも、開演のお知らせがあって出てきたのはラフな格好のチック・コリア(^o^)軽妙な挨拶に始まり、最初の曲が始まりました。

It Could Happen to You・・・ジェームズ・ヴァン・ヒューゼンの名曲ですが、1分後くらいにやっとわかりました。当日演奏される曲のプログラムは無しです。パンフレットも売っていましたが、プログラムが書かれたものではなくほとんどチックの写真と今回の来日公演で一緒にやるゲーリー・バートンの写真ばかりのもの。これで1,800円は高いので当然買いませんでしたが、演奏する曲のプログラムが無いというのもクラシックの演奏会とは違うところでしょうね。やる曲も即興的に変わってしまうこともあるからだと思います。

そうそう、その肝心の演奏ですが1曲目からぶちのめされました。ジャズのソロピアノは解りにくい、退屈という人が多いんですが、とても素晴らしい演奏でした。2曲目はアントニオ・カルロス・ジョビンの名作Desafinado」しかし、この複雑で多種多様な奏法は何と説明してよいのやら、チックが4歳からピアノを始めて、ありとあらゆるジャンルに手を染め60年以上もピアノを弾いてきた、その集大成とでも言えば良いのでしょうか・・・・・ワンジャンルの研鑽だけしてきた演奏家には到底できない新しいピアノの表現だと最初の2曲を聴いただけで思いました。次はビル・エヴァンスが良く弾いていた曲ですが、本当にアドリブの早いパッセージもタッチが揃っていて、なお且つとても美しい和音やアルペジオもとても美しいのです。旋律や和声が美しいだけでなく、ピアノのタッチそのものもとても綺麗なんです。余談ですが、チックのピアノタッチが綺麗なのは、あのグルダも認めていてチックの弾くモーツァルトはグルダも高く評価していました。そんなこんなであっという間に前半は終わってしまいましたが、15分の休憩をはさんで、後半はまたまた面白いことがありました。

後半もニコニコしながら出てきたチックですが、とても73歳には見えない若々しさです。外国人にしては小柄ですが、手は大きい。話しながら顔の前に手を広げた時にわかりました。軽妙な?トークもすべて英語なので完全にはわかりませんが、ニュアンスは伝わります。2部が始まって一曲目が終わってからだったと思いますがチックが舞台のソデに向かって手招きをしました。誰が出てくるのかと思いきや、女性でした。

あれあれ、と思っているとチックと抱擁してから、チックの肩に手をかけ「My ダンナ」と言ったのです。思わず会場からは笑いが起きましたが、そうそう、チックの奥様のゲイル・モラン女史でした。年はいってるけどとてもチャーミングな女性です。で、チックのピアノ伴奏でモラン女史が名作のSomeday My Prince Will Come を歌いました。この女性もともとはキーボード奏者なんですが、最近はよくチックの伴奏でヴォーカルを披露。いや、なかなかに上手い歌でした。この夫婦、夫婦仲が良いので有名ですが、二人の息のあった歌と演奏からも二人の間の良い関係がすごくよくわかりました。歳をとってもこんな関係が保てるのは本当に良いですね。

次に驚いたのが、「誰かステージに上がって」とチックのジェスチャー、最初に上がった若い男性、チックの右隣にスタッフに椅子を持ってこさせて座らせました。そして男性の名前を聞き、その男性を見ながらその男性のイメージを即興演奏。これがなかなか面白い。その男性はチックにとってはとても軽妙な男性に見えたようで、リズミカルなとても面白い演奏でした。次にステージに上がった女性は若いお姉さんでしたが、これまたとても美しい曲を即座に演奏。こんな曲がすぐに演奏できてしまうのはまさに驚異的。作曲家が何日も練りに練って作るような曲が即座にできてしまうのです。これ、そのまま録音して、譜面採りしたらりっぱなピアノ作品になると思いました。

この後がまたまた面白いことに。「チックがピアノ弾く人いますか?」一瞬私も手を挙げそうになりましたが、かなりの人が挙手。最初は若い女性が選ばれて、ステージに上がるようにとのジェスチャー。その若いお姉さんステージにあがると名前を聞き、「〇〇さんです」と紹介。自分は椅子の左端によけて、そのお姉さんを隣に座らせました。ちょっとためらっていた彼女も一緒に弾こうというチックのジェスチャーにチックが弾きだして左手で伴奏をしながら面白いフレーズを弾くと彼女はそのフレーズをそっくりオクターブ上でなぞります。チックの弾くフレーズは段々と難しくなりますが、よくついていきました。最後はチックが上手く纏めてエンディング。これを女性二人、男性一人三人の観客とやりましたが、皆さんそれぞれにチックの上手い先導があったとはいうものの、なかなかに上手く弾いていました。多分皆さんマジで勉強中の人たちだと思いました。

今やジャズ界の巨匠とも言われるピアニストが、こんな気さくで楽しいことをするというのも驚きでした。その後も面白かったのは小品を作ったと言ったのか楽譜?のような紙を広げ、その紙を指差しピアノの上に置いて演奏した小品が5曲くらい。これもなかなかの曲でした。でも、最後の2曲最初は最近お亡くなりになった名ギタリスト、パコ・デ・ルシアのよく弾いていた曲だと思うんですが、ラテンの血が流れているチックはよくスペインや南米の曲をやります。これがなかなかすごかった。ギター的な要素もふんだんに取り入れてラテンの雰囲気も出てましたね。チックの演奏を聴いていて思ったのはものすごく正確なタイム感覚と言うかリズム感というか、一流ミュージュシャンは皆そうなんですが、どんなに変則的なリズムのパッセージを弾いてもタイム感覚がずれないんです。リズム感覚だけはちょっと自信のある管理人にはこの辺がやっぱりすごいなぁ・・・と思いました。

さて、演奏もクライマックスに・・・・多分これチックのオリジナル曲だと思いますが、最初はピアノの弦を鍵盤ではなく直接指で叩いて鳴らしたり、いよいよチックもジョン・ケージに・・・(^o^)というのは冗談ですが、ここからがすごいのです。激しい嵐があったり、得も言われぬ美しい花のような旋律や和声、まさに山あり谷ありお花畑ありのピアノで奏でる叙事詩のような演奏でした。この曲に関しては多分画家でいうところの下絵は作ってあると思いました。その下絵を元に実際の演奏で色付けをしているという感じでした。不覚にもちょっと目頭が熱くなりました。

さて最後の曲が終わり、絶大な拍手の後アンコール!出ました!スペイン!チックの作った名曲ですが、そのフレーズを弾くとピアノから離れて歌えというのです。あの独特のメロディーを観客ほぼ全員で唱和、チックは次々とフレーズを変えてきます、でもちゃんとついていけるものですね。もちろん最後はチックのピアノで感動のフィナーレ・・・。

いやはや、楽しくも感動した時間を過ごさせてもらいました。これはもう本当にチックさんに感謝と言うほかありません。チックが退出し皆さんが帰る時、このホール自体は音響も良くなかなかだと思いましたが、設計ミスか4階にあるのにエスカレーターが1台しかなく、しかも一人しか立てない狭いエスカレーター、なので乗るまでに大渋滞。その時私の前にいた若い女性二人、聞くとはなしに会話が耳に入ってしまったんですが、どうもお二人とも音大生のようでした。その会話の中で、「ジャズピアニストのソロピアノっていうからどんなのかと思ってたけど、なんか凄かったね」「ホントホント、あんなピアノが弾けてしかも自由自在って感じよね」「すごいなぁ・・・」とお二人ともとても感動されていました。・・・そうでしょ、そうでしょ・・・と言いたくなりましたが、常識的なおじさんである管理人は黙って心の中で「そうそう」とうなづいておりました(笑)

しかし、チックのパワフルさにも驚きです。このソロ・ピアノ・コンサートは3日連続。しかもその後ヴィブラホーンのゲーリー・バートンとの演奏を各地で行います。このあたりもやはり凡人とは違うのかなぁ・・・と思いました。

長文ここまで読んでくれた方には感謝いたします。また、こんな素晴らしい感動を与えてくれたチック・コリア氏に敬意を表すると共にこれからも体に気をつけて末永く素晴らしい音楽を演奏してくださいと祈るばかりです。

ホールの中の写真は撮影禁止だったのでホールの外の写真です。

よみうり大手町ホール
よみうり大手町ホール

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