マイルス・デイビス

マイルス・デイビスとその記念碑的アルバム

このページでは、これからマイルスを聴こうとしている人のために、マイルスの簡単なプロフィールとマイルス・デイビスの記念碑的アルバムの「KIND OF BLUE」というアルバムを紹介します。何が記念碑的なのかというと、 このアルバムでマイルスは「モード手法」と言う新しい概念を演奏に持ち込み完成させたアルバムだからです。 一時、ジャズファンの間で「モード、モード」と口走る人が多いようでしたが、実際にモード手法って何?と聞かれても明確に説明できる人が意外に少なかったので、あとで簡単に説明します。

マイルス・デイビスの簡単なプロフィール

「モード手法」って何?と言う疑問にお答えする前に、マイルス・デイビスについて少しお話してみましょう。 ジャズ音楽家の中では超有名な方なのでご存知の人も多いと思います。本職はトランペッターです。 黒人ですが裕福な歯科医の家に生まれ、ジュリアード音楽院でアカデミックな音楽教育も受けています。 最初、モダンジャズの草創期にはチャーリー・パーカー(as)やディジー・ガレスピー(tp)などのもとで、演奏をし研鑽を積んでいました。

マイルスは自分のトランペットのテクニックがガレスピーのように超絶技巧ではないことを早くから自覚していたからかもしれませんが、 音楽的な内容で勝負しようと考えていたようです。若いうちから様々な音楽的な実験を繰り返し、死ぬまで新しい音楽を生み出そうとしていた人です。 音楽界のピカソなどと言われる所以ですね。沢山のロックミュージュシャンとの交流もありカルロス・サンタナとも共演しています。 様々に変貌をとげたマイルスですが、個人的には1950年代~60年代にかけてのトランペットにミュートをかけて演奏していた時代のものが好きです。 この「カインド・オブ・ブルー」も1959年の作品です。

モード手法とは?

前述のモード手法について簡単に説明してみます。

モードとはすなわち旋法(スケール・・・音階の基と言えばわかりやすいでしょうか)のことです。 日本にも陰旋法(5音階)というものがあります。ロックやブルースで使われるペンタトニックスケールも5音階の旋法です。 このペンタトニックというのはアドリブがしやすいという特徴があります。また、この旋法というのは世界各国様々なものがあり、 その国の音楽の特徴を良く表しています。日本の演歌などもこの旋法を用いています。4度と7度の音を抜いて(俗にヨナ抜きと言います) メロディーを作り、その上にマイナーなコードをのっけると簡単に演歌風の曲が出来上がります。 スコットランド民謡が原曲の「蛍の光」も5音階でできています。

教会旋法(Church Mode)

通常西洋音楽に使用される旋法は古くからある教会旋法(Church Mode)が基礎になっています。 メジャースケール(長音階、通常のド・レ・ミファ・ソ・ラ・シド)とマイナースケール(短音階、ド・レ・ミ♭・ファ・ソ・ラ♭・シ♭・ド) がほとんどの音楽で使用されています。メジャースケールはモードでいうとIonian Mode(イオニアン・モード)といいます。 ちなみに短音階はAeolian Mode(エオリアン・モード)です。この上に和音(コード)が付いて音楽が出来上がっているのですが、 ご存知のようにジャズではこのコード進行を基にアドリブが展開されます。クラシックではもちろんコードネームはありませんが、 一定の規則のもとに和音の流れや不協和音を重ねたりとすべてが楽譜に書かれているだけで、 音楽の規模の違いはあるものの構造は同じと考えてよいでしょう。

通常のジャズではテーマ→アドリブ→テーマという構成でひとつの楽曲が演奏されますが、 アドリブはテーマのコード進行を基にくりひろげられるのが普通です。 たとえばガーシュインのサマータイムを演奏しようとすれば、最初に原曲を演奏者のスタイルや好みの編曲で演奏し アドリブを何コーラスか演奏するのです。ただ、このコード進行のもとにアドリブをするということはある種の制約を受けることになるのです。 もちろんコード進行の面白い曲は色々なジャズメンがとりあげています。ただこれだとコードにとらわれて、 自由なアドリブができないという不自由さもあるのです。

そこでマイルスは考えた。(なぜか田口トモロウ調になる)(笑)もっと時間的なつながりを持った自由なアドリブができないものか? そこでモードになるのです。先ほどの旋法の中のマイルスがここで使用したのは「ドリアンモード」という旋法でした。 これはどういうものかというと、ハ長調のドから始まる音階をレから始めて臨時記号なしにレで終わる音階です。 これは長調でもない短調でもないちょっと不思議な感じのするスケールです。 「レ・ミファ・ソ・ラ・シド・レ」(・のある音の間が全音、・の無い音の間が半音になります) 楽器を持っている人はちょっとこれを弾いてみてください。長調でも短調でもない、独特の雰囲気がありますよね。 マイルスはこの旋法を使ってコード進行なしに横の流れを感じさせるアドリブの背景を考えたのです。 もちろんこのモード上の重ねた音を和音としてピアニストは自由な和音を弾くことができます。 極端に言えばDドリアンモード上の音であればどんな和音も弾けるということになります。但し、ここで過去あったように、3度重ねの和音では今までの音楽と同じ響きになってしまいます。これはマイルスのアイデアなのかビル・エヴァンスのアイデアなのかわかりませんが、4度重ねの和音にしたのです。これがあの独特のモダンな響きの和音になりました。これはかなりの重要なポイントだと思います。

この「KIND OF BLUE」というアルバムの1曲目の「So What」という曲でこのモードを使っていますが、単調になるのを避けるため途中で半音上のE♭ドリアンモードに 転調して演奏するようになっています。 ソリストもコードのことを考えることなくこのモード上の音を使って自由にアドリブを展開することができます。 ここから発展してコード進行のある曲でもモーダルな手法で演奏がされるようになりました。これを説明するとまたまた長くなってしまうので省略します。

何はともあれ音楽は聴いてみるのが一番です。試聴してみてください。

So What

Level Crossing

上記マイルスの「So What」と同じ音楽構造で曲を作り演奏したものがありました。もちろんマイルスとは比べ物にはなりませんが、管楽器が入っていないので、単調にならないように、数コーラスは8ビートにしてあります。

カインド・オブ・ブルーについて

少し、理論めいた話が長くなったので、実際にこのアルバムの音楽について触れてみましょう。マイルスはここでもトランペットにミュートを使い、音数を少なくしてじっくりとアドリブに歌心を通わせています。 また、このアルバムで重要なポイントはやはりピアニストにビル・エヴァンスを起用したことでしょう。 但し、すべての曲のピアノがビルではありません。 ビルはマイルスからモードのアイデアを教わると同時に、ラフマニノフやラヴェルの音楽をマイルスに聴かせ このアルバムの一種静謐な雰囲気を作り出すのに一役かっています。 ビル・エヴァンスというのはモダンジャズのピアニストで彼の影響を受けなかった人はいないと言われるほどの素晴らしいピアニストで、 ジャズの主流である黒人の感性から脱した独自の音楽世界を築いた巨人です。クラシックの音楽家の中にも彼のファンはたくさんいます。私のもっとも好きな音楽家でありピアニストです。 ビル・エヴァンスについては別ページをもうけてありますので、興味のある人はそちらもご覧ください。

マイルスの慧眼

マイルスはまた才能ある人を見出す天才でもありました。ビル・エヴァンスにしてもしかりなのですが、マイルスのバンドに在籍していたピアニストは後にすべて超一流のピアニストになっています。チック・コリア、マッコイ・タイナー、ハービー・ハンコック、キース・ジャレット、すごい面々です。ピアニストだけではなくジョン・コルトレーンというサックスの巨人もいました。 このアルバムのなかでも素晴らしいテナーを吹いています。

私はこのアルバムでは「Blue In Green」という曲が一番好きです。マイルスとビルの共作ナンバーですが、 美しい曲です。ビルもこの曲はお気に入りで後に何度も自分のピアノトリオで演奏しています。コルトレーンのサックスもなかなか良いですね。右の動画はビル・エヴァンスの名アルバム「Portrait in Jazz (1959) 」の中のピアノ・トリオによる【Blue In Green】こちらも素晴らしい演奏です。

 

ジャズって結構食わず嫌い(聴かず嫌い)の人も多いですが、その膨大な音楽世界は一生楽しんでも汲みつくせないものがあります。ぜひ、皆さんも聴いてみてください。